松岡アノン、2023年ISAジュニアワールドチャンピオンのメンタルとは
松岡亜音(マツオカ アノン)選手のあどけない笑顔から発せられた元気な声は "あけましておめでとうございます!” だった。
それは私の2024年度初正月サーフ日であり、アノン選手にインタビューを頼んだ日でもある。
若干18歳。2024年3月に高校卒業予定の現役女子高生。2022年から世界戦でも輝かしい戦歴を残している彼女に今回インタビューで聞きたい事がたくさんあった。ISAジュニアチャンピオンとなった選手のサーフィンに対する意識の持ち方や、2023年を好成績で勝ち抜いた秘訣、そして2024年に向けての取り組み方だった。
インタビューで聞けた言葉をまとめると、クリアなゴールを持つこと、そこにたどり着く手法は何かを明確に理解すること、そしてサーフィンを楽しむことがどれだけ大事かであったを社会人経験数十年の私に再認識させた。
また、試合に臨む時のメンタル、戦略、試合運び等、彼女にこれはオフレコかと確認するほど赤裸々に事細かく話してくれたが、それは他人には真似ができない自信の表れ、また勝つための新たな戦略開発へ向けて自分へのプレッシャーをかけているようにもとらえられた。
松岡亜音ファンやトップ選手を目指す人たちにこのインタビューをシェアしメンタル、スキル、モチベーションアップにつながればと願う。
ここからのインタビューやり取りは、私の発言を”私”とし、アノン選手を“ア”と表す。
私:今日はお時間を頂きありがとうございます。そして2023年の輝かしい成績おめでとうございます!
ア:ありがとうございます(笑)
私:2023年の数ある優勝の中で一番嬉しかった優勝はどの大会ですか?
ア:ISAジュニアチャンピオンです!
2023年一番嬉しかったのはISAジュニアチャンピオンになれた事
私:世界一度々おめでとう!沢山の大会に出ていて成績を残してきた2023年。2023年は何を目標に動いていましたか?
ア:一番はWCTに入る事が夢なので、そこに行くためのCS(チャレンジャーシリーズ)に必ず参戦できるようにする事、そして参戦したら一年目という事で簡単には勝ち進めないとわかっていたのでスキルアップ、そしてISAジュニアに参戦できるのが最後の年だったので、優勝したい!という気持ちが強くそれが達成できて凄く嬉しいです
私:2023年3月にCS参戦が決まってからのフォーカスはCSに勝ち抜く事、ISAジュニアチャンピオンになる、この二本立てになった?
ア:と、オリンピックも出たいと思っていたので3本立てでいっていました!(笑)
私:次から次へと凄い!メンタル壊れる時ってないですか?
ア:CSシリーズを回っていて世界のトップレベルの選手たちが集まる場所で学ぶことが多かったので、うまくいかない事も多くて...。でもそれを良い意味にとらえ必ず改善していこうという気持ちで、無駄ではなくこれから生かそうという思いを持っていました。
私:CSの世界はストレス?
ア:CSは女子48人いてその中で5人しかWCTにいけないんです。本当に狭き門なんですけど、今年私と同じ年の子がWCTに入ったりして強い刺激を受けて、絶対に彼女ができるなら私も入れると思っているので、強い気持ちと努力を怠らなければ大丈夫です。
私:なるほど。気持ちが強ければ跳ねのけられるという事ですね。
ア:そうだと思います。
ストレスは強い気持ちで跳ねのける事ができる
私:CSでの試合運びとWQSでの試合運びのやり方は違う?
ア:CSのみんなはレベルが高いのでWQSアジアリージョンにいる時と比べうまくいかないんですね。WQSの場合いつもなら仕掛ける側なのにCSでは仕掛けられる側に回ってしまっていて、それが今の私の弱点なんですけど、20分25分の短いヒートで挽回できずに終わっちゃうケースがあったので今年はそれを克服したいと思っています。
私:試合前のイメージで相手をドミネートする、試合が始まったとたんに仕切るイメージはWQSとCSは違う?
ア:もちろん試合が始まる前はイメージが出来ているんですが... 20分の試合では3本程度しか良い波が来ない場合があるんですね。その良い波一本目に確実に乗ると決めて入るんですけど、CSでは相手に一本目を乗られてしまうんです。プライオリティーが付く前の一本目なんですが自分が気付いていない時に奥に入られていて。ハンティントンではそのレギュラーの波に乗られて1本目から7点を出されて...。 CSみんな強いので刺激を受けていて学ぶところだと思っています。
私:この一本目に乗るという作戦?はオフレコ?
ア:全然大丈夫です(笑)
飛び入り参加 ア父:補足になるんですがトップの子たちはもう狙って相手にも乗らせないし一本目のノンプライオリティーで8を出す。それを開始一、二分でやられちゃうと25分ヒートでもかなりダメージがある。それを逆にやっていかなければならないんですが、初年度のこの子たちにトップの子たちはそれをやらす隙を見せない世界なんです。WQSとCSは全く違くて、あれは経験しなければわからないと思います。
ア:前半戦が特に大事です。
WQSとCSは全く違う。経験しなければわからない世界
私:そのCSの厳しさを経験した上で、今メンタル、フィジカルトレーニングなど何を特にしていますか?
ア:フィジカルトレーニング自体は今年大会が多くてさあまりしていませんでしたが、サーフィン漬けでした。でも大会で勝つ為、勝ったときのイメトレはしていました。
私:興味深いのですが、勝つ人はイメトレをしているという言葉をよく聞くのですが2023年特に嬉しかったのがISAジュニアで優勝した事とのことですがそこで優勝するイメージを描いていましたか?
ア:意識的にも無意識的にも描いていて(笑)、今回3回目の参戦だったんですけど1回目と2回目は空気にのまれるというか、自分の力を発揮できなくて。2022年はラウンド3くらいで負けちゃって、その負けた瞬間から来年は絶対勝つと決めていました。
ISAでの試合ではみんなレベルも高いし国を代表している選手が集まっていて、波もバックウオッシュも入っていたり、大きな波から始まったんですが、他にタルタルで15分ヒートでまったく波が来ないヒートも有ったり。
イメージでは毎回ヒートする前に自分のサーフィンに集中することを決めていて、ひと試合ずつ勝った時に、これは優勝できるんではないかとイメージし自信がわいていました。
結果が良い時はすごいシンプルなんですよ。サーフィンしてご飯食べて寝る。ほかにやらないといけない事はないかな、と思うくらいシンプルなんです。本当にそこだけに集中できている環境なんです。
良い結果が出せる時はシンプル。自然に集中できている
私:ISAジュニア優勝する前の絵ずらというのは... 例えばWCTのベルズで言えば表彰台でベルを鳴らす姿をイメージしているの?
ア:あの試合前、ウイニングライド乗って浜に戻ってきた時に、周りに誰もいないんですよ。そんな中、むっちゃ喜んでいる自分を第三者的に見ているイメージができたんです。試合終了のフォーンが鳴って、フィニッシュライド終えてアノン優勝!ってアナウンスされてグーってこうやってる瞬間がイメージできたんです。
私:あ!!良い!もう一度やって!写真にとるから!どんなグーだった!?
みんな:(笑)! 写真タイム数秒
ア父:まさにそれが映ってたのをライブで見たよ
私:それをイメージしたから実際に勝ったときにやったんだ?
ア:いやイメージしたからじゃなくて多分勝手にそうなっていました(笑)
私:これを大会で優勝する時はイメージしているのね!(写真見せる)
ア:でもKuruiで優勝した時やほかで優勝した時もイメージはそれぞれ違ったんです。その場にあった優勝イメージ、喜び方があったんです。
私:Kuruiでも優勝しましたもんね!
ア:Kuruiに行ってから自分の2023年の試合のレベルが変わったと周りから言われて。あのトリップと大会はとても良かったです。何故かというと、ちょっと早めに現地インしたんですね。そしたら同じグーフィーフットの伊東季安琉君とかカメラマンの木本さん、そのほかの方々もいて一緒にサーフセッションをやっていたんです。みんなとてもレベルが高く引っ張られて、女の子が入らない様なガリガリなリーフにも入ってチューブに抜けたりできて試合前に凄い自信になったんです。試合会場は浅くてみんな怖がっていたんですが自分は余裕だったのでそれは大きかったと思います。
その時は現地や日本から応援してくれている人たちに、新しい自分のサーフィンを魅せたい、勝ちたいという気持ちが強かったので今までにないサーフィンができたと思っています。
プッシュしてくれる仲間がいたから勝てたKuruiPro
私:ハワイでシェーンベスチェンにサーフィントレーニングを受けていたのをインスタで見たけれども、その時にトップでの後ろ足をけり込む様なライディングが追加されたなと感じたのですが、それも強くなった要因?
ア:その時にフロントサイドを結構学んでKuruiもフロントの波なので成果あったと思います。バックショルダーファーストと言って後ろの手をグンと早く回すことによってカーブも素早くなるし、リップにもエアリバースにも作用することなのでそこを重点的に教っていました。
私:トップでターンやリップした時に前よりさらにパワーゾーンに戻っている気がして。
ア:誰もやっていないライディングというかリップより早く降りて次に行くというのが点数が高いので練習しました。
Kuruiはダブルファイナルだったんですね。ProジュニアとQS5000。Proジュニアのファイナルをやった後にQS5000 のファイナルだったんでが、Proジュニアではずっと一番抜けしていたんですが最終試合で、中塩佳那ちゃんが最後にポイントを出して2番になってしまって。
負けた後すぐQS5000の試合だったんですがすごく悔しくて泣いちゃって。もうだめかもしれないと思ってたんです。どうしようと思っていて。対戦相手も小さいころから知っているポルトガルの選手でうまくて。
試合が始まったら、Proジュニアの時とは風が変わって急にオンショアが吹いてきちゃって、全然マイクの音が聞こえなく自分が何点必要かわからなくて。そんな中いっぱい相手選手はインサイドで波に乗ってて。もーいいや、自分にとって良い波に乗ろうとシンプルに考えて。それで気持ちが楽になったのかな... で、目の前に来た大きな波に乗ったらまさかのビッグ3ターン入れることができて7点台を出して逆転優勝みたいな感じでした。
私:波が来るというのは自然の問題だと思うのですが、その波に7点台を決めれたのは吹っ切れて楽しもうと思ったから?
ア:わからない。。結構体力的にも限界でなんかぼーっとしちゃっててあんまり記憶にもないんですけど、、神様がその波をくれたんだろうなと思っています。海の神様が(笑)
私:海の神様?!そういうの信じるの?(笑)
ア:信じます信じます!います。初年度もこれからも見ててくださいと言いました。でも、波も良くなかったので悪い波に乗っても点数が出ないのがわかっていたので相手が乗っていても私は乗らなかったんです。そこで体力が回復したのか、冷静に良い波だけを待つという判断基準が脳にあったと思います。波が来なかったら負けていいやと思ってた時に来たので本当に神様のおかげだなと思っています。
海の神様に感謝を忘れない
私:もう笑えなくなりました。。苦笑
今聞いた話だと、フォーカスは大事なんだなと感じました。目標が大きな波に乗る、だった場合小さなのみには見向きもしないとか。
ア:優勝する人って波が良くても悪くてもとびぬけて点が取れる演技があるから重要だと思います。
私:ちなみに今エアーも練習している様ですがなぜ?
ア:私の世代、それこそリップカールライダーのエリンとか女の子でもエアーをしてきてて、エアーをしないと女子でも勝てない時代になってきたので練習して大会でも出していきたいです。自分も男子だけじゃなくて自分もできるんだと自分でもやりたいし、魅せたいし。
私:今この人がライバルと思っている人いますか?
ア:えーーーと、、
私:あれ?すぐ出てこない?
ア:出てこないです。陸ではみんないい人ばかりで。でも海に入るとみんなWCTチャンピオンになるという夢が一緒なので全員がライバルですね。
海に入ると誰もがライバル
私:こんな受け答え18歳ができるとは。。。素晴らしいです。
ア:あともう一つ心に残っている大会。サウスアフリカでの大会でファイナルでWCTに入っているアリッサスペンサーと戦って、これはもう楽しもうと思って。波もすごく良くて、お互いグーフィーで私の得意のバックサイドで。アリッサが乗って私がのってと交互に乗っていたんです。でも私の方が良くて9ポイントもらえて僅差で私が優勝したんです。
だから私でも世界で通用するんだなと思いました。
私:では今では世界でも戦えるという自信がある?
ア:自身はあります!でもまだまだこれから伸ばすところ、戦略的には一本目の波に乗るとか、技術的には一本一本のターンのクオリティーを上げるとかエアーリバースの完成度をあげるとかチューブライディングするとか... 沢山あるんですけど...。
今では世界で戦える自身がある!
私:そういうのは書き出すんですか?
ア:はい。毎日日記に書いています。日本にいる平日は今日はどこどこで入ったとかこの板はどうだったとかなんですけど、試合の時はいい所と悪い所を書き出しています。
私:男の子の事も書いてある?!(笑)
ア:ないです!あとは感謝する人たちを書いて、その人たちの為にやるという事も書いています。
私:早いスルーでしたね!男系の話は事前に事務所通さないとね!
ア:友達と話すときはそんな話ばっかりですけどね!
全員:(笑)
私:最後にサーフィンの試合運びやイメージ、プラン立てなど人生にもつながりがあると思うのですが、今後アノンちゃんはどうなっているんでしょうか?
ア:直近では来年2025年にはWCT入りを果たしたいです。そして2028年オリンピックの年に私は22歳なのでオリンピック選手になる。そこからは未定なんですけど多分30歳手前までは第一線で戦っていたいと思っています。そこからの人生もサーフィンに携わっていたいと思っています。
昨日かな、小学校の卒業アルバムを見たらサーフィンを広めたい、サーフィンの魅力を伝えたい、子供たちにサーフィンを教えたいと書いてあったので、スクールやトレーニングジムをやるのか等まだわからないんですが。。
エコも大事で4歳くらいから毎月千倉海岸でゴミ拾いをやっていて自然の大事さも教えていきたいです。
2025年はWCT入り、2028年はオリンピック出場を目指す!
私:本当に色々と勉強になったし18歳の受け答えだとは思えませんでした。ありがとうございました!あ!次の試合に優勝した時のイメージ図は?
ア:これかな?実際違う事やってたらごめんなさい!
全員:ハハハ!!ありがとうございました!
松岡選手、本当にたくさんの時間をインタビューに割いてくれてありがとう。これからも応援しています!WCT入り、そしてオリンピック出場に向かって頑張ってください!!
次回優勝した時のイメージ↓